前回の記事では、Scrapboxを使ったフリーライティングの実践内容を再現しました。
私が実感したScrapboxでのフリーライティングの有益性を感じていただきたく、実際のScrapboxでのフリーライティングを再現しながら説明を加えた記事です。抽象的な内容で説明するより、個別具体的な実践内容で説明した方がイメージが湧きやすく退屈しないのではないかと思い、実際のフリーライティングを公開しました。
まだお読みでなければ、本記事を読んだ後にご覧いただけると、この記事の内容の理解が深まると思います。
さて、今回は、前回の記事で紹介したフリーライティングの結果を踏まえ、Scrapboxを使ったフリーライティングの有益性を整理しました。
発想法やフリーライティングに興味のある方、Scrapboxユーザーの方にはぜひご覧いただきたい記事です。
1 Scrapboxを使ったフリーライティングは蓄積した情報を活用できる発想法である
初めてScrapboxを使ってフリーライティングをしたとき、真っ先に感じたのは、フリーライティングは発想法として使えるのではないか、ということでした。発想法といっても、これまで目にしたような発想法とは違います。
蓄積した過去の情報を活用できる発想法です。アイデアや知識などの情報を蓄積すればするほど威力が増す発想法です。こんな発想法は今までみたことがありません。
具体的にいうと、フリーライティングした今現在の自分の考えと、それに関連した過去の自分のアイデアや知識などの情報が出会い、新たなアイデアが生まれたり深まったり拡がったりする発想法です。
これは、ノート間をリンクで繋ぐことができ、それを関連ノートとして表示できるScrapboxの機能を活かした”Scrapboxならではの発想法”と言えます。
Scrapboxは2ステップ先まで関連ノートとして表示されます。具体的には、今見ているページからリンクを張っている他のページ、今見ているページにリンクを張っている他のページ、そして、今見ているページがリンクしているページにリンクしている他のページが表示されます。言葉で説明するとわかりづらくなるので、もしわかりづらければ「ScrapboxとObsidianの比較」で図解していますのでご覧ください。
では、この発想法としてのScrapboxを使ったフリーライティングの何が有益なのか。詳しくみていきます。
2 発想法としてScrapboxを使ったフリーライティングの3つの有益性
発想法としてScrapboxを使ったフリーライティングの有益性を3つにまとめると、次のとおりです。
- 潜在意識が刺激され当初は考えつかなかった考えが出てくる
- 蓄積した過去のアイデアや知識などの情報が活かされる
- 考えが深まり拡がり整理されていく
では、順番にみていきます。
(1)潜在意識が刺激され当初は考えつかなかった考えが出てくる
”考えたことを書く” と “頭に浮かんだことをそのまま書く”
アイデアを出さなければいけない。そんなとき、どうしていますか。
よく使う発想法は、一人ブレスト(ブレインストーミング)、KJ法、オズボーンのチェックリスト。ツールで言えば、マインドマップ、マンダラート、アウトライナーといったところです。
これらの手法やツールを使っても、残念ながら何も言葉が出ず何も書けずに終わる、ということがよくあります。例えば、マインドマップを使っても、真ん中にテーマを書いて、5、6個ノードが伸びたあとは手がとまってしまう。
先にあげた手法やツールだと、”考えたことを書こう“、としてなかなか言葉が出てこないことがあります。しかし、フリーライティングの場合、”頭に浮かんだことをそのまま書こう”とする意識が働くので、意味のない言葉も多いですが、とにかく言葉がたくさん出てくるんです。
改めて考えると、これまで出会った発想法では、「考えたことを書く」という意識が働くため、頭の中で考えがまとまっていないと、なかなか言葉にできない。一方、フリーライティングでは、「頭に浮かんだことをそのまま書く」という意識が働くため、考えがまとまっていなくても何かしら言葉は出てくる。もちろん、それがテーマに沿っているか、また、使えるアイデアかというのはありますが、結果的に役立つアイデアが含まれていることもたくさんあります。
『発想法』の中で著者の川喜田二郎さんは、アイデアに限定せず意見を出し合う姿勢を「ブレーンストーミングの精神」や「ブレーンストーミング的精神」と表現していますが、これに近いイメージがあります。
精神においてはブレーンストーミングがいちばんよろしい。精神においてという意味は、ブレーンストーミングとしてオズボーン氏がやったのは、新しいアイディアを出すことに注意が集中されているだけである。けれどもいまここで問題にするのは、関連的な知識も扱うべきであって、アイディアだけに限定しなくてもよろしいという意味である。そのようなブレーンストーミングの精神で互いに意見を出しあうと、主題らしい中心点をめぐって多種多様の意見がでる。(『発想法』より)
決してアイデアに限定するわけではなく、また、テーマから外れても気にせず、とにかく頭に浮かんだことをそのまま書き続ける。
アイデアと思わず出てきた言葉が過去のノートと結びついてアイデアになるかもしれない。仮にテーマからそれてもリンクさえしておけば、別の機会に使えるアイデアになるかもしれない。何を書いても無駄になることはないと思える、これはScrapboxならではです。
書き続けることで潜在意識を刺激する
頭に浮かんだことをそのまま書き続け、それを後で読み返してみると、自分が書いたとは思えない文章や考えに出会うことがあります。それを何度か経験すると、自分の「潜在意識」に眠っていた何かがフリーライティングによって顕在化されたのではないかと思えてきます。
前回の記事で紹介したフリーライティングの結果を振り返ると、フリーライティングをする前には、とても自分では考えつかないようなアイデアが含まれていました。仮にフリーライティングをせずに真っ白な紙に書き出そうとしても決して出てこなかった思います。
これまで、一人ブレストと称して、思いついたアイデアをキーワードにして出し続けることをしていました。
最初は勢いで何個かキーワードが並びますが、次第に何も考えが出てこなくなり手が止まる。そして、必死に何か出そうと頭だけが動いている状態になるのですが、文字にはできず書き出せない。やがて思考がフリーズしてやめてしまう、ということがよくあります。
フリーライティングでは、書き続けることが重要です。仮に意味のない言葉やテーマからそれたことが頭に浮かんでも、それをそのまま書き続ける。とまらないことで頭に浮かんだことを捉え続けることができるのです。まったく意味のない内容もあるかもしれませんが、文字にし続けることで自分の潜在意識を刺激し、そこから思いもよらない何かが出てくる可能性がある。その可能性は、とまらずに書き続けることで高まるのです。
(2)蓄積した過去のアイデアや知識などの情報が活かされる
Scrapboxでのフリーライティングによって出てきた文章の中で気になるキーワードをブラケット([ ])で囲む(リンクする)。そうすると、過去に蓄積した情報のうち関連したノートが「関連ノート」として表示されます。
なぜなら、今現在、フリーライティングによって自分の頭から出てきたキーワードに対して、過去の自分は何を考えていたのか。それがわかるからです。また、表示された関連ノートの中には、書いたこと自体忘れていたノートがあることもあります。
表示された関連ノートを見返すことで、今現在フリーライティングにより出てきた自分の考えと、過去の自分の考えが頭の中で混ざり合います。そして、混ざり合った結果、自分の頭の中で何が起きるのか。どんな考えが出てくるのか。まるで他人事のようにそれを待つのは、なかなか面白いひとときです。
それは、化学の実験のようでもあります。フリーライティングにより採取した自分の中に眠っていたアイデアという液体とScrapboxに保存されていた関連ノートというアイデアの原液が混ざり合うことで、何が起こるのか。色が変わるのか、性質が変わるのか、煙が出るのか、はたまた爆発するのか。どうなるのか、それを待っているひとときが面白い。そんな感覚です。
その実験の結果、すなわち関連ノートを見返し頭に浮かんだ考えを文字にすることは、アイデアが深まったり拡がったりすることにつながります。これは、まさにScrapboxに蓄積した過去の情報を今現在の自分が活かしていることに他なりません。さらには、Scrapboxにアイデアや知識などの情報を蓄積すればするほど活かせる可能性は高まり、出てくるアイデアの質と量に好影響を与えることになるのです。
(3)考えが深まり整理されていく
前述した思考法や思考ツールを使っても、前述のとおり、「考えたことを書く」という意識になり、結果、“考えたことが出てこず”、結局、頭の中で考え続けるだけで終わることがあります。頭の中だけで考えていると、最初の方に考えていたことを思い出せなかったり、漏れることもあります。
フリーライティングは、頭に浮かんだままの内容を書き続けるので、後で思考の流れを追えます。もちろん、テーマからそれることもありますが、どうそれたのかがわかり、なぜそういう考えに至ったか振り返ることができます。
この振り返りが大事です。
フリーライティングした後は、気分がスッキリするので、それで終わってもいいのかもしれません。でも、発想法という目的でフリーライティングをする場合は、読み返すことが必要です。大半は意味のない言葉やテーマとは関係ない内容が並んでいることもあるかもしれませんが、アイデアの断片が隠れていることもあります。
30分以上フリーライティングをすれば、数千字の文字が並ぶので、それを読み返し、使えるアイデアを見つけ出すのは面倒な作業です。
でも、そのたくさんの文字の中から使えるアイデアを探し出す「宝探し」のようなものと考えると、少しだけ楽しい気分になってきます。宝でなくても「ダイヤの原石」かもしれない。そんな心持ちでフリーライティングの結果を読み返すと面倒で苦痛な作業ではなくなります。
関連ノートが表示されたら、その内容は今読み返しているフリーライティングの内容とどういう関係があるのか。同様の考えなのか、異なる考えなのか、違った切り口からの考えなのか。それを見てどう思ったのか。何を考えたのか。そんな投げかけをしながら頭に浮かんだ内容をフリーライティングし、その内容を関連ノートに追記したり、新規ノートとして切り出すことで、考えを深め拡げていくことができます。
そして、まとめノートを作って、切り出した新規ノートや関連ノートなどのリンクを集め、項目ごとに分けて整理する。そうすれば、フリーライティングにより出てきた自分の考えと過去の自分の考えとが混ざり合って出てきた考えが1つのノートの中に集約されていくことになります。こうしてリンクを集めて1つのノートとしてコンパクトにまとめることができるのはScrapboxならではです。
3 発想法やツールに期待し過ぎない
どんな発想法でもそうですが、それを使えば常にアイデアが出せるとは限りません。
それは、今回紹介したScrapboxを使ったフリーライティングも同じです。フリーライティングした結果、意味のない言葉だけの羅列で終わるかもしれません。ブラケットで囲みたいと思えるキーワードすらないかもしれません。
Scrapboxでフリーライティングしたからといって、必ずアイデアが出るわけではない。そんな心持ちで実践するべきだと思います。それは、他の発想法でも同じです。
Scrapboxでのフリーライティングの結果、何もアイデアが出ない。もしかしたら、他の発想法やツールを使ったらアイデアが出るかもしれない。そう考えたくなるときもあるかもしれませんが、それは試してみないとわかりません。
でも、私はこう考えます。発想法やツールは相性もあるので、これらを変えることによってアイデアが出てくる場合もある。しかし、そもそもアイデアの源泉は、自分の日頃の経験や知識、思考、すなわち様々なインプットとアウトプット、そして自分の潜在意識が関係していると思うので、最適な手法やツールを探すのと同時に、自分自身を見つめ直すことが大事ではないか、ということです。
4 おわりに
最後に本記事の内容をまとめます。
- Scrapboxを使ったフリーライティングは蓄積したアイデアや知識などの情報を活用できる発想法である
- この発想法の効用は次の3つである。
- 潜在意識が刺激され当初は考えつかなかった考えが出てくる
- 蓄積した過去のアイデアや知識などの情報が活かされる
- 考えが深まり拡がり整理されていく
繰返しになりますが、この記事のもとになったフリーライティングの実践を再現した以下の記事をあわせてご覧いただくと、本記事の内容の理解が深まると思います。
未読の場合は、ぜひご覧ください。
また、Scrapboxについて詳しく知りたい方は以下の書籍がおすすめです。